「肉谷」は高倉町田井（旧田井村）に属 し、高梁川を隔て津川町今津と対向してい ます。肉谷橋のたもとの「肉谷」への入口 には、道標を兼ねた地蔵菩薩の石仏が迎え てくれているように立ち、『「右建長寺二十 六丁」「天保十四年（一八四三）」「施主 肉谷 高山 たかやま 」』の文字が刻まれています。 「肉谷」は吉備高原といわれる隆起準平 原上にある松原町神原南（海抜四〇〇�叩� 付近から高梁川へ流れ出る谷川で、少し登 った吉迫の山すそに、産土神 うぶすながみ 「八大龍王宮」 （現・海 わだつみ 神社）があります。この神社には 「肉谷」地区の守り神として農耕をめぐる 多くの神事が残っていて、古くから農業地 域として栄えていたことが分かります。 例えば「八大龍王宮」の名が語るように 「雨乞いの神事」が行われ、「雨をたんもれ ジューオーサン」と繰り返しながら裏山の 尾根を登った頂上で火を焚いて請雨の祈祷 をしていた龍神信仰の摂社だったのです。
そして、この龍神は海神 わだつみ を習合する場合 が多く、「海神社」と呼ばれ海神の女とさ れる豊玉姫命 を祭神として天慶元年（九 三八）に勧請したお宮であります。 また、年頭や春先に村の安全や家内安全、 五穀豊穣など厄除け祈願し、豊凶 ほうきょう を占う弓 祈祷（的打 まとうち 神事）が行われ、古くから農業 をめぐる予祝 よしゃく 的な性格を伝える年占 としうら 行事の なごりをとどめる神事などがあります。 「肉谷」という地名は大変珍しい地名な のですが、『以前「仁久谷」とも書いてい たようだ』（肉谷の藤田剛治さん談・ 76 歳） とも言われています。「肉谷」という地名 に当てはまりそうなのは、『「抜」 ぬく（ぬけ） という意 味は「抜」という語が転じたもので、「抜 け崩れた」という崩壊地形 ・ ・ ・ ・ 、または浸食地 ・ ・ ・ 形・ を表す地名である』（「地名用語語源辞典」 東京堂出版）という説であります。しかし、 この意味だと決め付けるのも危険であり、 とにかく地名の難しさを示す一つの例が 「肉谷」なのです。 （広報高梁）